2月下旬、阪急百貨店梅田本店9階で「春の九州物産展」が開催された。九州各地の、いわゆる「うまいもの」がところ狭しと並んでいた。そんな中、風変わりな出店があった。ロザリオ専門店「ロザリーマリア」である。ロザリオはカトリックの伝統的なお祈りの道具だ。うまいものに混じって、ロザリオが展示されていると聞いて、さっそく出かけた。阪急本店1階奥のエレベーターで一気に9階まで上がり、物産展会場へ。会場はごった返していたが、「ロザリーマリア」だけは静かだった。出迎えてくれたのは、オーナーの本山孝雄さん。おだやかな口調で「今回は2回目の出店です」と言う。ちょうど、1年前に初めて物産展に参加した。阪急の催事企画担当者から「物産展に出展しませんか」と声をかけられた。今年もまた参加出来たのは、前回の出店が好評だったからだろう。五島からはるばる大阪まで出向くのはそう楽な仕事ではない。往復の旅費だけでも大きな出費になる。「格安の航空チケットでやって来ました」と笑っていた。
本山孝雄さんがロザリオ展示即売会場で配っていたリーフレットにはこう書いてある。「祈りの島の小さなロザリオ工房です」というタイトルに続いて次のように記す。「キリスト教の信仰を守り受け継いできた、五島列島福江島。祈りの島とも呼ばれる聖なる地で、カトリックの信心道具であるロザリオを、職人が一つ一つ心を尽くし、命を吹き込むように繋ぎあわせ手作りしています。丈夫な金具を使用していますので、壊れにくく、末永くご愛用いただけます。2015年には、鬼岳を眺めることのできる場所に小さい工房をオープンしました。教会巡礼・観光のお土産に、どうぞ、お立ち寄りください」
阪急百貨店の催場で展示即売されていたロザリオは、1本1万円以上。一般のカトリック教会売店などで売られているものに比べると、はるかに高い。しかし、材質を見ると値段以上の価値がありそう。誕生石や真珠を使った芸術品だ。球をつなぐ針金は丈夫なもので簡単には切れない。ロザリオを使い捨てではなく、「一生もの」と考えれば、たとえ1万円でも安く感じられる。高価なロザリオだと思えば、失くさないように心掛けるし、祈りにも力が入る。
家族とともに愛知県から福江島に移り住んだロザリオ職人、本山孝雄さんの仕事が末永く続くように祈りたい。
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